転送ラブレター

それから彼女は、シルバーの靴で街を駆け出した。


彼女の名前は奥野、肩書きはハピネスプレゼンター、副業でスパハニをやっている、21歳、女性。

奥野との出会いを遡ると、見渡す限りのグレイな世界が思い出される。ガラスの靴は履けない、舞踏会には行けない。それでも、ただ、ただ、灰色。

そんな出会いが嘘だったと言わんばかりに、彼女はハツラツとしたピンクの笑顔を、いっぱい、いっぱい私に向ける。


私は悟る。一体全体どうして笑顔がピンクかって、そんなのは、pHに反応した「青き春」が肌の上でそう発色したに違いないのだと。

どうりで可愛らしいわけだ。




私からプレゼントしたばかりのお揃いのビニール傘を掲げ空を見上げる彼女。これもまた、深く印象に残っている。

"なれなかった誰か"のフリをしていた私に自分自身を思い出させてくれた、
「好き」を恥じなくていいと背中を押してくれた、特別で大好きな傘。
特別で大好きな友人へ贈るのには、もってこいの代物だった。


空に浮かべれば、グレイだった世界にはたちどころに春が映し出され、いつだって青く、ときめきマシマシのオーバーレイがかかる。
否、実は世界は以前からこうだったのかもしれないな、なんて、思ったりして。




彼女は本日、シルバーの靴を購入して帰った。
あの頃ガラスの靴が履けなかった彼女だけれど、シルバーの靴を手にした今、オズの国からカンザスでも目指すのだろうか。

いいえ、彼女はシンデレラでもなければ、ドロシーでもない。"なれなかった誰か"を目指す必要なんて、私にも、彼女にも、誰にだって、ないのだから。
おそろいの傘は、そのシンボル。




文字に起こしていたら、数ヶ月前彼女が口ずさんだ替え歌が、脳内有線で流れてきた。

「幸せは歩いてこない
だからかすめに行くんだよ」


そうね、クッキー生地じゃないのだから、寝かせている場合ではない。勿論寝ている場合でも、ない。がっつくくらいで、ちょうどいい。


幸せは歩いてこない。
だからかすめに行くんだよ。

生き急げ私達。
いつだって青く、ときめきマシマシのオーバーレイ。それからそれから、煌めく素敵な思い出を履いて。