Dirty

タバコを吸いたい。
いつも吸わないこの私が、何故だかタバコを吸いたい。

ああ、もうそんな季節か。

夏が来る。


夏が来たら、今年もチョコミントアイスを食べる。
毎年、好きか嫌いか確認したくて食べるけれど、いつも決まって「まあまあな感じ」と思う。


チョコミントのスッとする風味と一緒に、歯磨きがわりにタバコを吸っていたのを思い出した。


あまりの吸いたさに、ガツンと来るメンソールタバコを立ち寄ったコンビニで買うところを想像してしまった。



無印良品に通い詰めてそうな私は、チョコミントアイスとライターをレジに持っていく。

私をひと目見て観葉植物育ててそうな女と勘違いした店員に、タバコの番号をスマートに言うなんて、面白くってたまらない。

ばかすかタバコを吸っていようと、浴びるように酒を飲んでいようと、訴えられやしないのに、この、「やってやった」感はなんだ。
かくれんぼで最後まで見つからなかったみたいな、妙な快感と達成感。私はガキだ。


すっと取り出した1本を咥え、優しくぼおと火をつける。
そうそう、いつも火をつけた後ライターをしまうのにもたついて、しばし息を止めている。タバコを吸うのには慣れない。

ゆっくりと吐いた息を確認するように、過去欺いた自分と、ついた嘘らを供養する。アーメン。

のぼる煙を辿って見上げると、深い深い紺より手前に、チラチラと光るものがいくつもある。綺麗だ。



ハッとした。
夢のような想像の世界で、私はそれを星空と勘違いしたが、引用元の一昨年の夏、実際見たのはクラブの天井だった。

その時は、眠気とアルコールが混ざり合って、はっきり言ってマトモじゃなかったけど、座らない首を後ろに傾けて本当に良かった。天井は綺麗だった。

薄く反射した若い人らのうち、ただの1人も、天井越しに目が合うことはなかった。
凝った天井に目を向けたのは私1人だったから。

その時星空は私のものになった。そんな気がした。




チョコミント嫌い勢とチョコミント好き勢が毎年毎年同じ言い分でお互いの良心を押し付け合うもんだから、今年は永世中立国の私が立ち上がりこう言い放つって決めた。


「歯磨きがわりにメンソールタバコ吸っちゃおっかな〜〜〜〜!!!!!」


すると、チョコミントを挟んで歯磨きだなんだと言い合っていた大勢の人間が、一度私を睨み付けると、今度は喫煙者と非喫煙者、メンソールいる派かメンソールいらない派、男も女もそれ以外も、もれなく全員交差し合って争いを始めるわけだ。



その隙に、私は1人静かにチョコミントアイスを口に運び、ちょっと一息メンソールタバコを吸い、誰も見向きもしない美しい星空はまた、私のものになるのだ。


煩く閑かな、夏が来る。